黄昏や宵闇を背景にしたメランコリーな色調の中に、ロマンチックな情景を
描き出した織田広比古。1953年(昭和28年)東京都出身の画伯は、
日本芸術院会員の織田広喜を父に持ち、'76年に東京造形大学を卒業、
銀座兜屋画廊を皮切りに各地で多数の個展を開催して好評を博しました。
'83年の日伯美術展で日伯賞を受賞、'85年に初出品した二科展では特選
に選出されました。以後は、二科展を中心に作品を発表し、'88年パリ賞
を受賞し、'90年会友となり、'94年会友賞を受賞し、'96年には会員に推挙
されました。その他、'86年現代日伯美術展MOA美術館賞、
'88年上野の森絵画大賞展フジテレビ賞など、数多くの受賞歴を誇っています。
作品の多くには、繊細な女性と共に、楽器や月などの優雅なモチーフが登場し、
抒情性に富んだセンシティブな絵柄で洋画ファンを魅了しています。
2009年に56歳で惜しまれつつ他界しましたが、柔らかな色彩に浮かぶ仄かな
光は、彼方へと続く道を照らす灯火のように、鑑賞者を優美な絵画世界へと誘います。
今年の5月にパリで客死した織田広比古。今後更なる活躍が期待されていた画伯
の死は、父親である織田広喜のみならず、美術界に大きな衝撃を与えました。
弊社では数多く画伯の絵画を取り扱い、作品のコンセプトに就いて何度か取材を
しましたので、どれもが印象に残る作品ばかりですが、
本作は、第6回上野の森美術館大賞展でフジテレビ賞を受賞した秀作であり、
特別な感慨を抱かせる一枚です。外灯の光や夜空の星が煌く街を背景に、
麗しくも華やかな美女たちの乗った車がハイウェイを疾走しています。
高速道路という日常的な空間は、いつしか幻想的な絵画世界へと変貌し、
ファンタジックなムードに包まれています。登場人物たちに共通する細い腕と足、
さらには極端に小さな手は人形のようであり、アンバランスなスタイルが強調され、
また、黄金色の輝きを放ちながらたなびく髪は、輪郭を曖昧にした彼女たちの
周りをオーラのように取り囲んでいます。大きく足を広げた助手席の女性や、
陰部を見せる男装の麗人などは実に大胆な描写ですが、卑俗なイメージはなく、
パリの一夜を謳歌するセレブたちの高貴な魅力さえも感じられます。
織田広比古ならではの清楚なロマンティシズムと、優美なエロティシズムが
見事に融合した逸品であり、夭折の画家の代表作として将来の評価に
期待が持てる大作です。
|